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効率的に生きる若者たち

世の中は効率的になった。改札は止まらずとも通過でき、ネットでは最新の情報が手に入り、台所へ行けば冷蔵庫が中身の賞味期限を知らせてくれる。素晴らしい。

その日は夕方に用事を駅前で済ました。少し腹がすいており、ビールでも飲みたい気持ちもあったので、歩いて5分。行きつけのダイニングバーに足を向けた。久しぶりのことだった。ドアを開け、すぐカウンターに座る。見知った顔のマスターにビールを頼む。

それから30分「買ったらビール50円引き、負けたらマスターに1杯おごり」みたいなことをマスターとしながらお互い近況を語っていると、引き締まった冬の空気を抱いて店のドアが開く。20代半ばのカジュアルな若者だ。どことなく伊勢谷友介を彷彿とさせる爽やかな男の子だった。彼は最近この店に通っているらしい。マスターの手間を考えてか、ぼくの横に1つ席を開けてスッと座る。ぼくも若者と話すと、なんだか時代通になった気持ちになるので大歓迎だった。

マスターを交え、ひととおりの自己紹介と乾杯を終えた後、彼の最近の悩み。それが話の主題となった。最近付き合い始めた彼女が結婚願望が強く

「結婚って今の時代、明らかに男に不利じゃないですか。結婚するヤツの意味がわからないッスよ」

と愚痴のようなことを言っていた。ぼくは、なるほどなあ。若い世代の人もそう思ってるのかと思って、とりあえずうんうん聞いていた。伊勢谷友介は続ける

「金の自由がなくなる」

「メリットが全くない。これだけ技術が進歩して家事なんて自分でできる」

「35年マイホームローンなんて絶望の極みだ」

「子育て1人3000万円じゃ、そもそも育てるのが不可能」

「老後だって老人ホームがある」

「性欲に困ったら最悪風俗って手だってある」

「それなのに女は男に養ってもらう事をまだ考えてる」

「これだけ悪条件揃っててなんで結婚なんかするんッスか」

横から見える、伊勢谷友介の爽やかな鼻筋にぼくは嫉妬混じりの殺意を覚える。しかし、理屈がおかしいわけではないので、まだだまってうなずいていた。マスターも

「結婚は、判断力の欠如からするって言うよな」

と焚きつけていた。


世の中は効率に満ちていて、モノにも知識にも、そして人生にも効率の良さを求めるのが今の時代普通だ。効率的というのは「お金」と「時間」で効率的だ、資本主義的に効率的だという事だと思う。しかし、効率良く生きた先に何が残っているのだろうか。人生ゲームみたいに何かもらえるわけじゃないし。最初にゴールした人には300万ドル! みたいな。そういえば人生ゲームでゴールして天国に行った人たちは、もらったあのお金を何に使うんだろうか。

ぼくは、効率的な友介に興味をまだ惹かれていたので、1つ質問をしてみた。

「伊勢谷君には、なにか趣味はないの?」

「あっ、オレ夏冬スポーツが好きで、夏の休みは海、冬は雪山行ったきりッス。ボーナス払いで今年の板も新調して準備万端!」

「えーと、さっきの話で言えば、それは、これからの人生に非効率じゃないの?」

「何が? …あっボードするのッスか?? いやー、それは人生で一番大切な時間。だから金じゃないッス」

ああ、友介君は多分大丈夫だ、とぼくは思って

「金じゃない女の子も早く見つかるといいね」

と意地悪に言ったら

「…アッ!」

とだけ口から音を漏らした。友介の顔は、その時だけ少し不細工に見えた。

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日々効率を考え、よく生きるのは大切なことです。その上で損得を無視できると判断した「金じゃない」もの。そういうものに皆さんが多く出会えますように。