平日の昼間に河川敷で氷結レモンを飲むのが贅沢でたのしい

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仕事をやめてから春と秋の楽しみが増えた。ちょっとだけ自転車をよけいに漕いで、途中で「氷結」のレモン味(缶チューハイな)をローソンで買って河川敷に行くことだ。平日の昼間限定。

私は河川敷とか海岸とか景色が開けている土地がことのほか好きで、小さな時分から良くそういうところに行っていた。一人で。その時は冷えた氷結は携えていなかったんだけど、ただ川が流れるのをぼおっと眺めたり、変哲のない雲がのらりと過ぎていくのを何も考えずに仰いでいることだけで充分で、その時間が大好きだった。

小さな頃の記憶は小学生に入ってからしか残ってない。その頃からの記憶といえば、3限目だか4限目だかが始まる呼び鈴を遠くに確認しつつ、そっと1人で校門を抜けて、河川敷や丘を目指す自分の姿だ。背徳感からか妙な高揚感を覚え、踏み出す歩幅が大きかったのを今でもありありと思い出せる。

大人になってからこの話を他人にすると、どうやら多くの人はこんな脱走じみた事をしなかったらしい。私の記憶が違いかもしれないと、この記憶を母に訪ねてみる。すると母は「学校からパート先に、授業中におたくの息子が失踪した、と良く連絡があった」と聞かせてくれた。通知票はいつだって「落ち着きがない。座っていられない」と書かれていた。昭和の事だからか捜索とかはされなかったらしい。年子の兄弟がすべからず悪童だったから「あそこの兄弟なら仕方あるまい」みたいな扱いだった可能性も否定出来ない。貧困が悪かったことにしておこう。

私は日が落ち始めるよりずっと早く、長くても1時間で、そのゴールデンタイムの楽しみを切り上げることにしていた。同級生に見つかると台無しだからだ。先生がおまえを探してたとか、今日のクラスのヒーローの話なんかを横でされると全てが台無しに思えた。「学校は?」なんて聞いてくる大人たちも同様に、ゴールデンタイムを台無しにする人々だった。一人であることが喜びの源だと思えた。

河川敷に一人でいる輩といえば、スナフキン。私はその頃からムーミンに出てくるスナフキンが大好きで、彼こそが世界の真のヒーローだと今でも思っている。ムーミンは頻繁に河原にいるスナフキンをたずねるが、きっとスナフキンはちょくちょく邪魔をしにくるムーミンの事がうざくてしょうがなかったに違いない。

そういえば、ちょっと前にBライフの寝太郎さんが神奈川の河川敷に土地をゲットしてテント生活を始めたという記事を見て、私は羨望せずにはいられなかった。あんた、スナフキンそのまんまじゃないか。

まあとにかく、一人が楽しいやつらには、河川敷は最高のスポットになりうるのだ。

閑話休題。

いい年のおっさんが平日の昼間に、河川敷の貴重なあずまやを占拠してだらだらと氷結を飲む。たまに「からあげクン」を食う。本人は大変な充足感を覚えているわけだけれども、この行為は小学生の時にはなかった問題を抱える。

というのも平日の昼間の河川敷の主な顧客は、小さな子どもを連れたお母さんであり、光合成のためにその場を訪れたお年寄りが主だった人々だ。後者であれば認識能力の低下で、私が何を飲んでいるか認識できない場合が多々あるが、お母さんがたはだいたい気づく。

「ヒッ…!」

彼女たちはこんな声にもならない声を出して一瞬固まったのち、ケプラーの第1法則よろしく私を中心に弧を描いたのち引力圏から脱出していく。

シムシティでいえば、犯罪発生率の赤色を私がみずから作り出していると思うと少々申し訳ない気持ちにはなるんだけども、私としては愉快すぎてやめられない。日本のほとんどの仕組みが正しく稼働し、ガッチャンガッチャン歯車が噛みあう音が遠くに聞こえてきそうな中、その実、私は風と水の音だけを聞いているのが至福なのだ。たまにアクセントを加えてくれる航空機の音。これまた好きだ。

勘違いしないでもらいたいのは、これは働いている人が大多数の中自分だけだらだらしているのが楽しいわけではなく、この疎外感というかストレンジャー(よそ者)感というか、自分と世界との接点が極めて小さくなった、半分死んだような状態が好きなのだ。単独での旅行中も似た感覚を味わえるのでこれもまた好きだ。

多くの人が平日の昼間の河川敷で酒を煽らない。これは仕事などの生活リズムからくる理由であったり、そもそもそんな事に意味を見いだせない人が大半だったり、まあそのどちらもが理由なんだろうけど、とにかく様々な理由で世界の河川敷に設置された飲酒スペースは、まだ比較的空いているといっていい。

というわけでいまのところ、職務質問もされていないし地域への苦情も出ていないようなので、引き続きこれをリタイア生活の素晴らしい楽しみの1つとして実行していこうと思っている。冬が来るまでは。

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