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格差解消のために富裕層に増税すると金持ちは逃げる

ピケティ本以来、国内で格差、貧富の差に関する議論は徐々に盛り上がっています。先日、当のピケティが来日した際は「ピケティフィーバー」と表現しても良いほどの盛り上がりでした。私のブログでもピケティの 「21世紀の資本論」記事を発売前に書きました。

今回は、富裕層向けに課税を強化するとどうなるかという話です。

とても良い記事で、議論の土台にさせてもらいます。id:aliliput さんの論調は「累進課税、やってみなはれ」と読み取りました。

私は累進課税や富裕層向けの安易な増税については懐疑派です。それについてこの記事では事例や意見をまとめます。情報や意見は多いほうが良いと信じて。

格差解消を目的とした累進課税の問題点とそれ以外の税

累進課税、稼ぐ人ほど多く課税する、という税法です。

これを強化するとどういった問題が発生するか、前述の id:aliliput さんの記事にもわかりやすい解説があります。Wikipediaの累進課税ページが最っ高にまとまっています(記事最後にもう一度リンクしておきます)。

ざっくりと累進課税についてデメリットを上げると

  • 頑張っても税金で取られるので、経済活動のモチベーション(動機付け)を低下させて経済効率が悪化する
  • 課税を強化された富裕層は、税負担を逃れるために国外へ移住する

というものです。

1つ目のモチベーションの低下については、同Wikipedia:累進課税から引用します。

税の累進性の上昇は経済効率性の阻害要因である。たとえばベストセラー作家のアガサ・クリスティは、「税金を払うために一年一冊は書かねばならないが、それ以上書けば国税庁を太らせるだけの愚行」として執筆ペースを抑えていた。

行き過ぎた累進課税。例えば年収1000万円以上の所得に対して90%の課税。このような経済活動の見返りが極端に少ない税制にすると、有能な人、稼げる人が活動をセーブする事例です。税制が違えばアガサ・クリスティーはもっと作品を残したのかもしれません。

国外へ移動する話に関しては多く事例がありますので、この後で紹介します。

他に富裕層に効率的に課税する方法として上げられるのは、

  • 利子・配当・キャピタルゲイン税(投資利益に対する税)
  • 資産税(資産を誰かやどこかに移転する時に発生させる税。相続など)
  • 財産税(持っているだけで一定額・割合課税される。戦時など)

があります。このような「資産が大きい場合にしか発生しない税金」も広義の累進課税といえるでしょう。

富裕層は重税に対して逃げるか・逃げないか

富裕層が逃げるかどうかの判断は、単純な税金問題だけでなく、国家の安定度など総合的な判断によります。

税制上有利だとはいえ、ドミニカやバヌアツなど、タックスヘイブンと呼ばれる不便で不安な国に資産や国籍を移す人が稀な事で理解していただけるでしょう。

しかし、自身の財産権が脅かされる時、彼らは行動を起こします。

歴史を紐解けば、16世紀前半、未だ財産権が確立されていなかったローマ。そこで財産を持った将軍たちは、自分の財産を戦艦に積んで海戦に望んだそうです。戦争中に家に財産を置いておくと、没収される可能性があるためです。

この時代の金持ちは既に「取られるくらいなら一緒に沈んだほうがましだ」と思っていたわけです。

最近では、ピケティのお膝元フランスが2013年に所得税の最高税率を75%に引き上げました。

結果、モエヘネシー・ルイヴィトンのCEOを始めとして、多くの富裕層が隣国ベルギーへ脱出しました。

そんな簡単に国を捨てるはずがない、と考える日本人は多いでしょう。しかし、歴史上、大陸ではごく簡単に国外への脱出が行われています。

数十年前までは日本は島国として脱出が容易では無い状態にありました。しかし、これだけ航空による移動手段が発達した現在では、陸続きであるのとそれほど差はありません。富裕層は日頃の活動で国境を越える事に慣れています。

また、税金をきちんと納めていれば、残った資産をデジタル的に海外に移転する事はそれほど難しい事ではありません。札束を持って飛行機に乗る必要は無いのです。

日本では、そういった動きを注視するため平成24年度の税制改正により、国外の財産が5000万円を超えている場合、所轄税務署に届け出る事を義務付けました。

北欧、デンマークやスウェーデンは、庶民が貯金できないほど重税社会だがそれほど国外移住が起こっていない、という話も合わせてされる事があります。

これは、両国共に税制に抜け道があるためです。例えば持株会社の税制を驚くほど優遇しています。スウェーデンでは子会社の売却に関するキャピタルゲイン課税は、0です。また、配当に関する税制も大幅にゆるくなっています。

富裕層が自身の資産を法人化し資産管理会社とし、租税を回避するのは多くの国で見られる現象です。また、経済成長性もその国を抜けるかどうかの判断になります。単純に個人に対する実効税率だけで語るのは誤りです。

国が不安定になった時、成長しない時、累進課税に逃げ道が無くなった時、富裕層は、逃げます。

超富裕層や、一度に富を手にした人が逃げる

また、国が不安定にならなくても一時的に巨額の納税義務が発生する瞬間、富裕層は逃げる事を強く考えます。

Facebookのファウンダーの1人、E・サベリン氏の事例は記憶として新しく残っています。

サリヴァン氏は、Facebookが株式公開する直前、米国籍を放棄し、シンガポールへ移住しました。手持ちのFacebook株式に巨額の課税を回避するためです。米国では大きなバッシングを浴びました。

投資家のように、居住地域にそれほど重点を置かない人々は、驚くほど簡単に祖国を捨てれます。投資家、広義の意味で創業者も投資家です。富裕層の中でも特に資産の大きな彼らは、多額の課税のタイミングで、国外へ出ます。

面白い事に、ほとんどの国で二律背反的に、富裕層に対する永住権や国籍の付与を優遇しています。金持ちの移住を歓迎しているのです。

これは、ほとぼりが冷めたら、税制上不利でなくなれば祖国へ帰ってくることが可能な事を意味しています。日本では国籍ではなく居住で税金を徴税しているため、国籍すら捨てる必要がありません。

タレントの大橋巨泉氏やサッカーの中田英寿氏はこういった居住による租税を回避するため、数ヶ月毎に各国を転々として暮らしているそうです。パーマネントトラベラーと言い、このあたりの話は橘玲氏の書籍で詳しく語られています。

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もう1つ累進課税に問題点があります。富が集中しているため「富裕層の何割が租税回避をするか」で単純に語れない点です。

CNNの記事によれば世界の成人の0.004%の人物が世界の富の13%を保有しています。課税の累進性を高めれば高めるほど、超の付く富裕層が租税回避をするでしょう。5人の超富裕層が租税回避をするだけでその国家に大打撃となりうるのです。逃げた魚の大きさが問題なのです。

これだけでも単純な累進課税が良い結果にならない思考実験になるでしょう。

富裕層が考える税の公平と平等

米国で税に対する意識が高いのはご存知かと思います。私も1つ記事にした事があります。米国の地価(固定資産税)と教育・安全性が連動しており、居住時域で格差が生まれるという話です。

米国では州や市によって大きく税率が異なります。そのため税の使われ方、受益者に対して非常に敏感です。近年テキサス州で独立分離運動があった事は記憶に新しいですし、富裕層が作った町「サンディ・スプリングス市」も話題となりました。

サンディ・スプリングス市、貧困層への税金拠出は明確に拒否され、税金によって民間から住民の便益を民間企業から調達しています。公務員すらほとんどおらず、業務は委託されています。

彼らにとって、税とは「暮らしを豊かにするためのもの」であり、働きもせずドラッグばかりやっている(と聞いている)見ず知らずの別の民族を助けるためのものではありません。移民国家では貧富の差があって当然と思っている人が少なくありません。

日本のように単一民族性の高が高い国家であれば、相互扶助の理念に基づいた徴税がある程度まかりとおりますが、これはグローバルスタンダードでは無いという事を知っておいたほうがいいでしょう。

そもそも国民の国に対する金や役務の負担というのは、国家からの便益に対する見返りとして始まったものです。おおざっぱに言えば、攻撃されないため、庇護を得ることへの支払いです。

しかし、暴力による簒奪が大幅に規制されている現在、国家による庇護は少しずつ威光を弱めています。

ジム・ロジャースも移住しましたが、シンガポールなどの安定した経済都市国家は、今世界中の富裕層から注目されています。日本の富裕層も毎年かなりの数がシンガポールに居を移しています。経済合理性を追求した国。年々資産フライトは彼らにとって容易に、そして合理的な選択になっているのです。

国家論や社会契約論まで踏み込むと話が四散するので、この程度に留めますが、国家の庇護を多く必要としない国際的企業が良い例です。彼らはより租税回避の傾向を強めます。

企業では、租税を回避するのは当然の発想です。さきほど、国家や民族の「相互扶助」として理念が上げられましたが、企業の存在理由、すなわち根本理念は「利潤の追求」です。それが証拠に日本の法人でも、利益の追求をしない取締役を背任行為として訴える事ができます。

富裕層が考える税に関する公平と一般市民の考える公平は違います。公平と平等が違うのに近いかもしれません。

法人は存在理由のために租税回避を行います。便益が無い限り出来る限り0に近づけるのが彼らの使命です。

では格差を無くす手段は何があるのか

払う気が無いなら出てけ! というのは簡単です。しかし、それで今よりましな社会が実現するでしょうか。

ピケティは格差是正を訴え、累進課税を強化する事を推奨しています。同時にフランスの累進課税を高めた税制が失敗した事も知っています。だから、彼は特定の地域が累進課税を実行しても効果は薄いと考え、世界的な流れを作ろうと世界各国を回っています。

格差是正の旗本ですら、単一国家の累進課税が失敗するのは知っているのです。累進課税を高めるには国際的な取り組みが必要です。

世界的に累進課税を高める、この案が現実的かどうかはわかりませんが「逃げ場を無くす」というのはひとつの発想です。

もう1つの発想として「税負担の納得性」という発想があります。前述の受益者の明確化がそうでしょう。見方を変えれば「目的税」といえるかもしれません。

もう少し発想を広げれば「名誉税」という考え方もあります。便益ではなく感情の見返りを用意すれば富裕層はがま口を開けるかもしれません。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団の事例でも分かるように、富裕層に公共に対する気持ちが無いわけでは無いのです。

であれば、逃げられるよりは、出さざるをえない・出したくなる方法を模索すべきではないでしょか。

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