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やりがい搾取の解説

ビジネス

上記のサイトが話題です。どういう文脈でこういう記事が出来たのか不明ですが、これをダシに「やりがい搾取」の実際を因数分解します。本筋の100万貰えて大学を辞めた際の機会費用については、自明過ぎるのでこの記事では言及しません。

やりがい搾取とはどういう状態か

「やりがい搾取」の定義についての確認です。

企業風土が、従業員に“やりがい”報酬を意識させて、金銭報酬を抑制する搾取構造になっていること。賃金抑制が常態化したり、無償の長時間労働が奨励されたりすること。働きすぎの問題として、本田由紀が名付けた概念。

やりがい搾取 - はてなキーワード

要するに、面白い仕事を会社が与えるから、安い給料で働いください、という会社側の態度を「やりがい搾取」といいます。

やりがい=面白い仕事や環境が実際どういった形で提供されるか羅列しますと

裁量の多い仕事
「自分で決めて良い」部分が多い仕事はやりがいを強く感じる事ができます。人間は「選択」する生き物です。選択できない状態より選択できる状態にやりがいを感じます。選択が連続する、デザインや設計などクリエイティブな職業は、やりがいを強く感じられる仕事といってよいでしょう。管理職も部下や予算の執行を選択できるためやりがいが多い仕事です。
単調ではない仕事
人間は単調な作業に対して「つまらない」と感じます。これは脳への刺激が少ないためだといわれています。次の状態を予測できない刺激の多い仕事に人間は「やりがい」を感じます。
知識・スキルの獲得
人間は成長の欲求が本能的に備わっています。新しい知識や技術を獲得する事は脳への刺激になりえます。また、将来的な発展を考え、新しい知識やスキルの獲得に対しやりがいを感じる事ができます。
未来の約束
将来の賃金上昇や独立・ポストなど、将来のメリットを想起させる事もやりがいにつながります。馬の目前にニンジンを吊るした状態です。
ステータス化したポスト
部長や役員、社長などの社会的にステータスとして認められた役割は自尊心を満足させます。そのポストで何かを執行する事自体もステータスの具現化となるため、労働をする事自体がやりがいを生み出します。
ステータス化した労働環境
前項の亜種です。立派なオフィスや、社会から認められた会社、社会から立派とされる上司や同僚と共に働ける職場はステータスとなりえます。同様にやりがいに変換できるのは明らかです。

要するに、待遇以外のメリットはすべて「やりがい」として変換されています。精神的充足です。賃金に換算できないメリットなので労働者は、サービス残業などの無給である事をいとわず活動をします。この状態を「やりがい搾取」といって良いでしょう。

労働者側のデメリットとメリット

労働者側のデメリットは自明でしょう。賃金を低く抑えられているという点が第一。その多寡が見積もりやすければ良いのですが、そうではありません。「いくら労働を提供する必要があるのか」がパッと見わからないのは契約として悪い状態です。同じように求められている結果も見えづらくします。

もう1つのデメリットとして、求められている結果が見積もれない事で、長時間の労働になりがちであるという点です。

メリットについて。金銭的な要求が低い性格の人々、彼らには良い職場になり得る点です。また、独立や転職で将来的に収入増を目指す場合、やりがい搾取=賃金以外のメリットが多い状態はメリットとなりえます。搾取の量が見積もりにくいのと同じ理由で、ノウハウや技術の流出を会社側も測りにくくなり、そういったポストやメリットを安売りする傾向があります。

やりがい搾取が一般的に良くないとされているのは、会社側の立場が強く、搾取量をコントロールしやすい非対称な状態で行われるためです。また、多くの労働者が精神的充足より労働量に見合った賃金を望んでいるためです。

会社側のメリットとデメリット

会社側のメリットは、1人あたりの労働を安く買える事です。金銭負担を減らし、やりがいを与える。零細企業やベンチャー企業の初期に見られます。

さらに見えづらいメリットとして、長時間労働や金銭に変えられない精神的充足を与える事で、会社への依存度、忠誠度が高まる点です。反論がある点だと思いますが、接触頻度が高まる事によって親近感が高まる事は心理学的にも認められています。

もう1つやりがい搾取にはメリットがあります。労働力を出し惜しみする労働者を選別できる事です。労働者の労働力の提供、すなわち付加価値の創出は、必ずしも労働者の能力に比例しません。短時間で仕事を終えそれ以上付加価値を生み出そうとしない優秀な労働者や、他人の創出した付加価値を自分に付け替える労働者。こういった人々を選別できます。

デメリットは、離職率が高くなる点です。前述の通り多くの労働者は、雇用契約に書かれた内容以外の要求を嫌います。特にサービス残業など金銭的に不利になる条件は受け入れがたいものです。雇用市場と比較して、サービス残業込みであれば条件の悪い契約である、として合理的に離職する場合が増えます。

続いて契約を履行しない事に対する会社への不信感が生まれます。条件の曖昧な契約はそれだけで受給を悪化させます。これも離職率を高める理由となります。

外部的には、こういった不誠実な契約をする企業は倫理観を疑われます。これにより、未来の採用コストや営業コストが高まるデメリットが会社側にはあります。

やりがい搾取が機能する現場

やりがい搾取の全体を分解してきました。では、会社が合理的な選択が出来る存在であると仮定した場合、どういう状態であればやりがい搾取を行おうとするでしょうか? 逆に言えば、以下の条件が整っていないのにやりがい搾取を行おうとしている会社はアホだという事です。

採用+教育コストやりがい搾取で得られる労働力

例を上げると、飲食店のホールスタッフ。彼らの採用単価は場所にもよりますが数千円〜数万円です。従業員教育は十分マニュアル化されているため、それほど高くないでしょう。この2つの合計額に、離職率が高まる事により採用・教育コストを掛けます。その値よりやりがい搾取で得られる値、安く買い叩けた労働力が上回っていれば、この式が成立します。

この式が成立しなくても、やりがい搾取をくぐり抜けたソルジャーが店長や正社員になる所までを計算にいれれば式が成立する場合があります。多くのサービス業はここでようやく式が成立します。

それくらいに採用+教育x離職率のコストは会社にとって巨大です。

たとえばIT企業で正社員を1名確保しようとすると、採用費だけで安くて数十万、一般的には数百万円が1人の採用あたりにかかります。教育コストはそれを越える場合も多いでしょう。

彼らが離職した場合、やりがい搾取で得られる労働力で到底穴埋めできるものではありません。やりがい搾取を受容した社員数割が2〜3倍働いたところで、焼け石に水です。

よって、一般的な企業は思いやりや倫理観でやりがい搾取をしないのではなく、離職率を極力抑え、採用教育費+人件費の総額をできるだけ小さくするために、やりがい搾取を行わないのです。離職率や風評被害さえなければ、合理的な経済主体としてブラック企業と同じことをしたいと思っていると考えたほうが自然でしょう。

とにかく、やりがい搾取が機能するためには、採用&教育コストが圧倒的に低い環境でなければ成立しないのです。

通常の採用コストや労働コストに耐え切れないからといってやりがい搾取を実施すると、離職率が高まり、結果総合的な労働力が伸びず、会社の成長を阻害する大きな要因になります。急成長している企業はこういった理由でもやりがい搾取をしない傾向にあります。


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元ネタの記事で

離職率80%も出してる会社に偉そうに入社してくれって言うんですから・・・
本音、言います。。。。
ちなみにですね。

有給もね、取れるんですよ?

残業も強制ではないし、帰ってもいいんですよ?
なぜか、有給も取って、定時で帰っていく人たちから辞めていく。

と書いてあるのがとても印象的です。契約の履行に敏感な人から辞めていく。ですよねー。

社長さんにとっては炎上する事で衆目が集まり、応募者は通常より増えるので一見採用活動として成功に見えるかもしれません。

しかし、今その会社に努めている人が「この会社にいるワタシ恥ずかしっ」と思って辞めて行く可能性を天秤にかけたらかなり危うい賭けかと思います。

なぜなら彼らはやりがい搾取に同意した貴重な人材であり、炎上で集まる応募者が実際のやりがい搾取に耐えられる比率はそれほど高くないからです。これくらいは乗り越えられるソルジャーの集まりなんでしょうか。

というかこのサイトはネタだと信じたい。最後にリクナビとかエージェント会社が出てきて「[PR]ウチならこんな会社には引っかからないよ!」みたいな閉めになるものだと信じています。

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