2018年〜2019年で読んだおすすめの本

ビジネスマン時代から比較すれば、読書にあてれる時間は明らかに増えている。けれども実際の読書時間というものはそれと同等、もしかしたら少ないかもしれない。 リタイアすると専門領域やビジネスに関する探究の必要性が薄れてくるからだと思う。

その分、世界の出来事や物語、専門外の分野に興味を持つことが多くなった。狭く深くから広く浅くに。

今回は、直近1〜2年で私が読んだ本の中で面白かったものをざっと紹介していこうと思う。新刊や話題の本は少なくて、kindle偏重なのであしからず。

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 増補完全版 (幻冬舎文庫)

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 増補完全版 (幻冬舎文庫)

「エリエール」ブランドで知られる大王製紙の跡取りがギャンブルで堕ちていく様を記録した本である。金持ちといえばギャンブルである。ビジネスとギャンブルの高揚感、これははほぼ同じだと私は結論づけている。その流れで依存や嗜癖に興味があって手にとった本だったが、なかなかの当たりだった。

本作では氏が次第にギャンブルに狂い、嘘を重ねていく。これも見どころたっぷりだがそれと同時に、億の金をやりとりするVIP客だけに開かれた、カジノにおけるの仕組みも垣間見る事ができる。これも楽しかった。

この本の後、大王製紙は、井川一族が持ち株を吐き出し競合に買収される形で井川一族の手を離れることになる。氏は本作において、そういった現実を曖昧にし、反省を見せつつも自身の正当性を時折主張するなど、かなり人間味のある懺悔を行っている。勧善懲悪的なものを期待するとガッカリするだろうが、私はこのほうが好きだ。読中または読後にネットで大王製紙事件を漁ってみると氏の自己弁護部分が浮き上がってきて、物語が厚みを増すのでそんな読み方がおすすめ。

生涯投資家

生涯投資家 (文春e-book)

生涯投資家 (文春e-book)

かの村上ファンドの村上世彰氏が描き下ろした、ライブドアVSフジテレビの裏側、自身の投資哲学を交えつつ半生を伝える本。

前出の「熔ける」に続いて世間からは悪人扱いされた人自身による、意見表明、反論、自己弁護というか、とにかくそういった類の本である。

この本が面白いのは、今までメディアで自ら語ることの少なかった村上氏自身の哲学が、メディアのおもちゃにされるのではなく、一本筋の通ったものとして語られている点である。氏の「日本へのコーポレートガバナンスの浸透」という目標への取り組みは、神の意思に対する光の戦士のように描かれている。一方でメディアからこぼれ聞く氏に対する意見は、それとは程遠く、金の亡者か冷血な悪魔の手先とされる事が多い。この本の外での氏への評価とのコントラストが強烈な印象を残す。この評価は「狂信者」によくあるパターンであるが、個人的にそれとは違った感覚を覚える。

Amazonのレビューでは高評価が多い。そのレビュー内容の大半が、本の内容というよりは、氏に対する再評価であることも面白い。

「コーポレートガバナンス」「ハゲタカファンド」「物言う株主」

この3つの言葉から起こされる行動が常に同じなのにも関わらず、ストーリー1つでこれだけ聴衆の評価を改めさせる。氏はやはり傑物だと思う。

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見 (文春e-book)

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見 (文春e-book)

  • 作者: ジェニファー・ダウドナ,サミュエル・スターンバーグ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/10/04
  • メディア: Kindle版
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医学の最先端をイメージしたときに、日本では山中教授のiPS細胞がまず頭に浮かぶ。しかし世界的に見れば、遺伝子編集CRISPR-Cas9のほうが大きく注目されているといっていいだろう。あの人間の細胞のなかに存在する螺旋状の設計図であるDNA。これを書き換えて病気を治す、もしくは予めリスクを取り除くという医学的アプローチ。クローン細胞や臓器培養よりさらにSF的な医療技術が現実のものになっていることがこの本で紹介されている。

この本の面白いところは、CRISPR-Cas9という新たな遺伝子編集技術を学びつつ、それを発見した中心人物であるジェニファー・ダウドナ博士とその研究室を中心に、まるで社会派ドラマのように物語が進行していく点にある。もちろんストーリー仕立てであるため、事実や真実からは多少それている部分があるのだろう。だがその読感はとても手触りが良いものになっている。

個人的にはトップの大学教授の仕事の実際がどんなものか垣間見える貴重な一冊になった。それは想像以上に科学ではなく、マネジメントだった。

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

我らがふろむだ(@fromdusktildawn)氏の処女作である。ブログ氏黎明期から続くブログ「分裂勘違い劇場」から2周りほど単純化して読者の間口を広げた行動経済学の本であるが、あまり行動経済学うんぬんを考えずにこの本と接したほうが良いかもしれない。

この本の良いところは行動経済学の一部と著者自身の経験を切り取って「勘違いさせる力」という誰にでもわかりやすく腑に落ちる言葉で対人関係や社会をパッケージングしているところである。本の中身はそのパッケージを猿でもわかるように書かれた説明書そのものであって、表題以上のものは出てこない。その切り口のため学術的な裏付けも重要視されていない。いわば「出オチ」であるのでそこを理解せず本を買ってしまうと裏切られた気持ちになるかもしれない。

予想どおりに不合理  行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想どおりに不合理  行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想どおりに不合理  行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

続けて行動経済学の本である。これも門外漢にも読みやすいという同じ特徴があるが、もう前出の一冊よりは少し裏付けされたものがあり、幅広い事例を扱っている。

「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」――。

こういった人間の脳の頼りなさ。目的とは裏腹に脳に抗えない選択をしてしまう人間の行動と心理をテーマに書いた本である。ちょっと行動経済学を流し読みしたい人におすすめ。

悪いヤツほど出世する

悪いヤツほど出世する

悪いヤツほど出世する

世の中に存在するリーダーは、なぜ例外もなくクソ野郎なのか。そんな疑問に答えを出してくれる一冊。

有名な、ピーターの法則「工場勤務の優秀な職工が昇進して管理職になると、これまで得た技術が新しい仕事に役立たず無能になる」というのがあるが、それをさらに補強するように「リーダーに求められる能力」と「リーダーになるために求められる能力」は別物であるどころか、真逆のものである場合が多い。こうしてリーダーの席はリーダーの資質満たさないもので埋め尽くされていく。

本書では多角的多方面にそんな事例を紹介してくれる。本書を読むことで、無能なリーダーへの溜飲を下げるもよし、リーダーを目指すために悪辣になるのも良いだろう。

リーダーシップ本を何冊か読む機会があれば1冊これを混ぜておくのを是非おすすめしたい。

自己暗示

自己暗示〈新装版〉

自己暗示〈新装版〉

  • 作者: C.H.ブルックス、E.クーエ,河野徹
  • 出版社/メーカー: 法政大学出版局
  • 発売日: 2010/01/14
  • メディア: 単行本
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一時期、私は脳科学やら意識、思考、脳内物質なんかにハマった時期があった。その中で見つけた1冊。

この本は、暗示(催眠)によって病気を治療しようという本である。それは気の落ち込み、ネガティブ思考など軽度なものから、うつ、さらには聴力の回復、慢性的な痛みの除去なども暗示によって解決してしまおうという本で、心理療法としては古典である。

暗示、催眠、思い込み、洗脳。言葉は色々あるが要するに、脳を自分(または誰か)の都合の良い方向にコントロールする方法論がこの本で語られる。実践的であると同時に実例が紹介されている。 個人的に、実例に関しては米国なんかの宗教番組でよく見られる神に救われたエピソードを一私人が語るものとどうしてもオーバーラップしてしまう。ようするに胡散臭さは本書全体から拭いきれない。

それを加味しても、やはり脳はある程度コントロールできるのだろう。精神疾患の治療には臨床として心理療法が用いられているし、前出の行動経済学本でも脳が自分の意識と同調していない事が明らかにされている。

脳や意識の不確かさを知る本としてとても面白かった。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

  • 作者: リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: Kindle版
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戦国時代は50年、平成は80年、令和は100年。人類の寿命の伸びと、それが人生に及ぼす影響をテーマにした本である。

私は30代前半でリタイアしたので、70年とはいかないまでも60年以上の老後があるという計算になる。そんな境遇からいつにも増して興味深くこの本を読んだ。

人生がより長くなるため人生のステージが今とは激変すると著者は予言する。若者と呼ばれる期間は30代以降まで伸び、フリーランサーが今より顕著に増え、セカンド、サードキャリアがあたりまえになり、労働年齢は80歳、90歳まで伸びると訴える。

著者の未来予想図があたるかどうかはともかく、医療の進歩は人類の寿命を100歳まで引き伸ばす事はたしかで、老後資金や社会保障は現世代より確実に目減りもしくは後ろ倒しにされる。もちろん人生100年が全ての人類に訪れるわけではない。地獄の沙汰どころか地獄の前の沙汰も金次第なのだろう。

どちらにせよ人生80年で認識がストップしている人は、その先の現実的な可能性としてこの本を読むことをおすすめする。

Yコンビネーター

Yコンビネーター

Yコンビネーター

Yコンビネーターはベンチャーキャピタルだ。ベンチャーキャピタルは数千万円〜、一般的には数億円〜を成長企業に投資し、その成長から利益を得る。 一方でYコンビネーターは数百万円を名もない会社に投資する。名もないどころか事業の計画すらない3人の大学生グループに投資する。そんな特別なベンチャーキャピタルだ。これをシードベンチャーキャピタルと言ったりもする。

今では世界中、日本にもシードタイプのVCは存在するが、その先駆けVCがYコンピネーターであり、巨人のように成長したベンチャー企業を排出した名門となった。

そんなYコンビネーターの独自の育成プログラムに2011年、ルポライターが密着したのが本作である。Yコンビネーターの中期頃にあたる。

シリコンバレーやベンチャーキャピタルが身近に感じられる一冊。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

続けて投資家の本。「ペイパル・マフィア」のドンことピーター・ティールの本である。

IT系の創業者の本はいくつも目を通してきたが、意識の境界線が群を抜いて広く、俯瞰的で、クリアであるのが氏の特徴である。

本の内容としては2012年に、氏がスタンフォード大学で「起業についての講義」を行った際のノートが元になっており、起業をするなら、今現在存在しないビジネスを立ち上げ(ゼロトゥワン)市場を独占せよ、というものである。ただ私としてはその使い古されたビジネスモデルより、端々に感じる氏の明晰さ、抜け目なさに驚きを覚えた。

きっとこの本を読んでもピーター・ティールの慧眼は身につかないだろうが、それでも楽しく読める1冊で、個人的にはもう何冊か氏の本を読んでみたいと思った。

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち (文春文庫)

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち (文春文庫)

株取引において、注文を10億分の1秒の差で先回りしていく超高速取引業者の物語。私はデイトレードはおろか個別株の取引も一切しない分散超長期投資なので、彼らと接する機会は最小限で済んでいる。たとえば10年20年保有するETFを買って、売る。2回だけ。ただ、それが少ないとはいえゼロでないだけに、こういった目に見えない巨獣を相手に格闘している個人トレーダーたちに思いを馳せた時に、背筋になんともいえない冷たい感覚を覚える

この本は2014年発刊であるが、物語はさらに前2008年リーマンショック前後の物語である。令和の時代において、この世界がさらに熾烈を極めているだろうことは容易に想像できる。

How Google Works

How Google Works

How Google Works

  • 作者: エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ,アラン・イーグル,ラリー・ペイジ
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2014/10/17
  • メディア: Kindle版
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GoogleがGoogleとなってから、そのユニークな企業倫理や文化、採用ルールなどはウェブを通じてこぼれ聞いてきた。そんな伝説のGoogleの初期から中期に至るマネージメントを一冊の本にまとめた本である。

この本の面白さは、Googleのマネジメントが日本的では無いことから来ている。彼らの選択した手法はどれも日本の企業文化では選択しないものばかりだ。つまり日本人にとって常識的や感覚的ではない。そのかわり恐ろしく論理的である。

きっと今のスタートアップの起業家たちはこの本を下敷きにビジネスを始めるのだろうし、巨人となった当のGoogleはまた別のルールを用いてその巨躯を操っているのだろう。世界的にはこちらのほうがすでに常識なのだろうし、日本にしたって20年もすれば勢力が逆転しているかもしれない。

個人的に気に入っているポイントとしては、1つの大成功した企業の理念や文化や組織マネジメントが論理と手記をあわせて1つのパッケージになった本だということだ。これは実はとてもめずらしい。この手の本の多くは創業者の立志伝であったり、精神論であったり、ただの手記であったり、個別の話題を取り扱った本であったりする。

私は1年に1冊くらい「これは何度も繰り返し読み返すからKindleで買ったけど書籍としておいておこう」と思い立つ1冊がある。まとまっており、読みやすく、耐用年数が長そうだ。今年の本はこれであった。

日本の路地を旅する

日本の路地を旅する

日本の路地を旅する

私は貧乏な家に家に生まれたので、貧困関連の新書や、困窮邦人(海外で貧乏な日本人)、外国人労働者などを平均的日本人より比較的多く読んでいると思う。私の中での「普通の人」がこれに近いからだ。普通のサラリーマンの話がファンタジー的に感じてしまい、このような人々のことをリアルに感じてしまう部分がある。

この本は被差別部落の本である。「路地」とは被差別部落の隠語。昭和において貧困と被差別部落は多くの場所で重なり合い、その境界線も曖昧であることが多かった。平成になり、路地出身の著者が全国の路地を歩いてそれを1行また1行と文章にしていく温度感は、昔のその空気感を少し荒廃させたものと一致する。ほとんどの被差別部落は過去のものとなったが、抉り取られた肉の傷跡のように今なお残る部分はたしかに存在する。

被差別部落出身の著者だからこそかけた、記憶と今の路地を重ね合わせ、批判や理想の類を寄せ付けない、独特の空気感を醸し出すこの手記は、個人的に大変素晴らしいものだった。

コンテナ物語

コンテナ物語

コンテナ物語

日本でもよく目にするトラック。その後ろの箱が「コンテナ」である。このコンテナが生まれて世界の物流を牛耳る時代の流れをドラマチックに物語として1冊の本にまとめあげたのが本書である。

何故あの箱が生まれたのか。物流、海運そいういものにまったく興味がないと本書は面白く読めないかもしれない。ただ私のように全くの無知識であっても興味があれば非常に面白く読める。海運物語といえば百田尚樹氏の小説「海賊と呼ばれた男」がある。あれが楽しめた方ならもしかしたら楽しめるかもしれない。海賊と呼ばれた男の立志伝部分ではなく、海運ビジネス部分が面白く感じられたら、だが。

物語の見どころは、コンテナが生まれた前半より、中盤以降の世界をコンテナが席巻し、港の荷役労働者、既得権益との衝突や、港同士の誘致合戦、とめどなく巨大化するコンテナ船などのビジネスロマン部分だろう。

歴史小説の主人公が「箱」でも楽しめる人におすすめ。

一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

今回小説は紹介するつもりが無かったが社会的な意味で例外的に紹介しておく。

本作はSFの古典である。といっても宇宙船や光線銃が出てくる話ではなく、社会主義と超監視社会に至った近未来を描いたディストピア小説である。トランプ氏が米大統領に就任したのを前後してこの古典がセールスを伸ばしている。SF小説として読めばそうであるし、社会風刺フィクションとして読めばそう読み取れる。奇妙に現代社会に符号する予言の書のような本である。

例えば中国、ロシアなどの社会主義独裁国家による、不穏分子への強烈な抑圧、支配、暴力は今も昔も変わることなく現実をなぞっており、フェイクニュースや、国家主導の事実の隠蔽、指標の改ざんなど民主国家ですらこの小説とリンクする部分が多い。

SF小説の宿命として時代の進歩と伴に、現実との乖離から作品は陳腐化していくものだ。1949年にSF小説として発表され、今は2020年が目前だ。しかし70年の時を経て陳腐化するどころか作品は、自国や超大国の動きとますますリンクしていく。

痛快というよりは陰鬱な作品であるが、この時代に是非とも読みたい一冊である。

※おすすめの本があったらTwitter(@giraffree)で紹介してください。 上記のとおり結構なんでも読みます、推理&サスペンス小説はあまり読みません。